亡くなられた志村けんさんのショートコントにこんなのがありました。赤ちょうちんの歌に合わせたコントです。
**** 題名 赤ちょうちん ****
薄暗い粗末な部屋。若い男女が普段着のまま、横たわっている。裸電球。外は雨。貨物列車が通る音。
そこへ、南こうせつさんの『赤ちょうちん』の一フレーズが流れる
♬ 雨が続くと 仕事もせずに キャベツばかりを かじってたー ♪
メロディーが流れると、寝転がっていた志村けんさんと石野陽子さんが
ガバっと起きて、そばにおいてある半割の大きなキャベツをそれぞれがかじります。
メロディーがフェードアウトしますと、二人はキャベツを横において又、寝そべります。
するとまもなく、またしても、
♬ 雨が続くと 仕事もせずに キャベツばかりを かじってたー ♪
のメロディーが流れ、ガバっと二人が起きて、キャベツをかじる。と少なくとも3-4度繰り返しますが
最後は飽食と自らの滑稽さに笑い出したり、エヅキそうになったり。
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■ キャベツばかりをかじってた
あのコントを今でも忘れられません。今でも時々YouTubeなどで見返すことがあります。
なぜなら、わたしの実際の経験と重なるのです。といっても、あの歌と同じであるのは「薄暗い粗末な部屋・裸電球」と「キャベツばかりをかじってた」の部分だけですが。
■ 貧しい生活が続いた
わたしの20歳代の頃は、給料が安く遊びはおろか一日の食べ物にさえ事欠くことが度々でした。しかし、若かったせいかそれがそれほど苦に感じなかった気がしています。今そう思えるのは、過ぎ去ったことへの郷愁からでしょうか。夜間の大学、学費の工面、一人暮らしの家賃や食費それらをバイトだけで充当することは、かなり困難がありました。
給料をもらったら、雀の涙以下の貯金してあとは全部使わないと生きていけないので、とにかく食べ物を調達することが、最優先事項でした。一人暮らしでしたから、何から何まで支払いはあります。それらを支払うと、残るのは僅かです。
給料をもらった半月ほどで、予算の2/3のおカネがなくなるのが常でした。それで、削れるものは食費以外にありません。身だしなみにおカネは掛けませんので、削れる部分はあり得ませんでした。
それで、残りの二週間と言えば、大きなキャベツを二玉程度用意して、硬そうな数枚を取り除いたら、丸いまま青虫の如くにかじります。それだけではさすがに不味いので、マヨネーズをかけました。万遍なく円形にかじり、飽食すればそれが朝夕食でした。
■ 彼女も離れて行った
あの頃は、自分のやっていること、自分の将来がまるで自信も見通しもなく、付き合っていた彼女は離れて行きましたが、何故かそれを不幸に思ったことはありませんでした。本当の不幸は不幸を不幸と思わないところにあったのかも知れません。
離れて行った彼女も、その時のわたしを見て、自分の将来が不安だったのでしょうね。『わたしと将来を誓い合ったのに』という思いがあったことでしょう。今でも、心から申し訳ない気持ちでいっぱいです。今の彼女の消息もその生活を知りません。幸せに暮らしていてくれたら、どんなにかうれしい。
あのちゃらんぽらんな生き方は、今思い返しても顔から火の出る思いですが、どこかに生きていることに自信がいっぱいありました。
ああいう、経験をも一度やれる若さがあれば、もっとうまくやって見せる、出来ると叶わぬ想いが今でもあり続けています。