わたしの務める個人事務所に若い男の子が入ってきました。なかなかの仕事熱心でしたが、相当な自信家でかつ、頑固者でもありました。納得行くまで仕事をするという、わたしには有り得ないスタイルで、半ば危うさを感じもし、頼もしくもありました。
ある初夏の日、突然に事務所に彼の訃報が入りました。
それによりますと、福井県を車で旅行中に自損事故を起こし、死亡したというものです。助手席には、彼女らしい女性が乗っていたのですが、助かりました。大した怪我もなかったのことです。
では、運転をしていた、わが事務所の若い男の子は重症だったのか、といえば殆ど軽症だったのです。
■ 死亡の原因は溺死
軽傷であったものの、落ちたところは、道路脇の水路でした。車は道路の法面(のりめん)を滑り落ちて、水路で横転しました。水量は多かったようです。運転席は水路に半分が浸かることとなったのです。そして、身動きが取れないまま、彼は溺死しました。
■ 一方彼女は
助手席の彼女は、運よく開いていた窓から這々の体(ほうほうのてい)で車外に出ることが出来て、軽症で済みました。
■ 車は高級スポーツカー
彼は、車好きで外車ではないものの、スポーツカーに乗っていました。その車のカッコ良さはわたしのあこがれのものでもありましたので、手に入れことが出来た彼が羨ましくありました。わたしは、年代物の走らない125ccのバイクでしたから。
スポーツカーは、一般に「一踏み150㎞」くらいは簡単です。一般車とは訳が違います。アクセルワークも難しく、そのうえ、遊びの少ない小さめのハンドル操作も難しいものです。
かれは、乗りなれていたはずですが、自損事故となると、これらが考えられますが、事故の原因については、事務所の所長も語らず、かつ、こちらも聞かずのままです。原因を語らないのは、他の原因だったのかも知れません。
■ 身内のスポーツカー事故
わたしの兄も彼が乗っていた、同じメーカーの違うスポーツカーに乗っていて、冬の国道でスリップして道路脇の擁壁に激突。鞭(むち)打ちになり、車をポンコツにした経緯が、この話のずっと以前にありました。
兄も決して運転が下手ではなかったものの、スポーツカーを乗り回すほど運転がうまくはなかったと思います。
兄は、これに懲りてスポーツカーには乗らなくなった、ということであれば良かったのですが、また同じ車種の色違いを買ってわたしたちを唖然とさせたものです。勿論、その後は事故は起こしませんが。
彼曰く、
『運転の腕が悪るかったのでない、運がわるかっただけ』
過信はいけません。
わたしなど、殆ど毎日のように乗っていますが、30年近く無事故無違反です。
そう主張すると、家族は
『それは、警察にお世話になっていないだけ、違反だらけの運転してる。運が良かっただけ』
と。
過信はいけませんね。