前の日曜日のことでした。居間でくつろいでいますと、二階から降りてきた娘が、珍しく探し物らしい様子で、うろつきます。その様子を、尋ねるでもなく、片手に持ったコーヒーを啜(すす)りながら、今日一日をどうしたものかと思案していました。
■ 探し物は何ですか
『あれ~、何処に行ったかな』
尚も娘は呟きながら、心当たと思(おぼ)しき辺りを探っています。その範囲は、次第に広がり、むやみとあちこちをひっくり返したり、覗きこんだりして、また
『あれ~、何処に行ったかな』
熊のようにウロウロ。わたしの視界を何度となく横切り、次第に捜索の手はわたし周辺に及ぶに至り、ついに
『何をお探しですか?』
と聞いてみました。すると彼女は、わたしの問いに耳を貸さず、存在にも目もくれず、これ以上には室内でもう探すところがないといった塩梅の視線を、揺蕩(たゆたわ)ながら、更に
『あ、うーん。あれー。どこに行ったかな』
というばかり。
答えるのが面倒なのかもしれないし、これ以上聞いたところで力にもなれない事かも知れないと思い、それ以上は聞きません。しかし、ぶつぶつ言いながら、視界を歩き回られると、こちらも落ち着きません。
■ 娘の手にあるもの
彼女が何を探しているのか、実は直ぐに察しがつきました。どうやら、靴下の片方を探しているようです。しかし、靴下は誰でも大抵の場合、両足同時に履き、同時に脱ぐものの筈です。それが、片方しかないとなるとは、どういう訳けなのか?
しかし、彼女はわたしの問いにまともに答える気はなさそうです。なぜなら、普段わたしがしている同じことを、若くて溌溂とした彼女がしているのです。同様の行為でさんざんにわたしを揶揄して来た手前、私から意趣返しをされたくないと考えたとしてもおかしくはないでしょう。
■ 捜索はわたしに及ぶ
わたしの前に立って、彼女は
『ちょっと立ってみて』
『あ、へいへい』
わたしのお尻の下に探し物はありませんでした。
■ 探し物は見つかるが
わたしは、その後、じっとしていられず腕を組み貧乏ゆすりをしながら、またしても
『なにーを、おさがーしーですかあー』
と、聞きました。すると、やっとわたしの声が聞こえたかのように、
『探し物です。お気になさらずとも』
そのうち、彼女の大捜索は大詰めを迎え、探し物は発見に至りました。
突然に彼女の顔が、がらりと喜色に変化して、
『あったー』
と持ち上げた手先に、丸まった靴下があったのは、想定内でした。
■ しかし、
しかし、娘は同時に、片手で持っていた靴下をどこかに置き忘れるという、失態に及び顔を赤らめながら、二次捜索を開始し、これはほどなく発見に至りました。
若くても、溌溂していても、時にはこういう事もありますから、、、