兄が中学生、わたしが小学六年生、弟が三年生のことでした。
わたしたちは、蒸かしあがったばかりのサツマイモを縁側に行儀よく並んで食べていました。午後三時ころであったでしょう。目の前には、中秋の色づいた木々が、陽光に映えて、一年で最も華やかな山でありました。
暫くわたしたちは、蒸かしあがったサツマイモを頬張って、目の前の景色に見入っていましたが、
わたしは、正岡子規の
「柿食えば 鐘が鳴るなり 法隆寺」
を学校で習ったと言いました。正岡子規が重病を押して奈良を訪れた際に休憩の茶屋で柿を食べていた時、法隆寺の鐘が鳴ったのを詠んだものだそうです。
その句を聞いた兄が、
『それなら、こんなのはどうだ』
とニヤリとして
『イモ食えば パンツ破れる への馬力(ばりき)』
『いひひひ』
『えへへ』
本人も含めてみんなで、芋を見ながらへらへらと長く笑っているのに気を良くしたのか、兄はさらに
『豆食えば パンツ汚れる 腹通し(はらとおし)』
と。
この句?でさらに三人の少年たちは、身をよじらせて笑ったものです。腹通しとは下痢のことです。豆を食べすぎると、誰にでも起こる症状のようです。
『それ汚いなあ』
とわたしが言って、また更に笑った、、、
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あれから何十年、かつて兄との会話の中で一番楽しく、記憶に今なお鮮明です。