わたしが一時期に席を置いた不動産業界の「飛び込み営業」でしたが、その仕事の厳しさから離職する人も少なくありませんでした。
■ 昨日入社・翌日退社の人も
正常な?人なら、その営業の現実を入社して当日の朝礼に出、社訓を復唱したり、営業方法を聞いたりすれば、翌日から出社したくなくなるほどでした。わたしに於いても、入社当日で後悔しましたが、元々不動産業界に好奇心があったことから
「やってみても良いだろう」
と判断しました。
しかし、同期に入社したものも、あくる日には1-2人、一週間で3人ひと月で5-6人と脱落していきます。自主退社もあれば、首もありましたが。
■ 会社は常時求人
会社は人は「城」ではなく「使い捨て」といった考えであったのか、人材の育成などとは考えも無く、入社3日程は研修のような会社の情報、他部門事業の資料配布や仕事の内容の紹介をするのですが、4日目からは1チームの一員として、訳も分からず、見様見真似で戸別訪問をさせられました。
従って、殆ど心の準備が整わない内に駆り出される訳で、辞める人も続出して不思議はなく、会社も人員の補填のために常時、社員募集を行っておりました。それで、会社に社員が溢れかえってしまうということになりませんでしたから、その仕事の厳しさが知れます。
■ 部長の口癖
その会社の不動産部門のトップは、部長でありました。
彼の口癖は
「仕事に頭を使え、頭のない奴は足を使え」
でありました。
「どのようにすれば売れるか自分で考えて行動して成果につなげろ、もし、その考えが浮かばないなら、飛び込み営業先数を増やせ」
という訳です。一理あります。わたしは、もっぱら足を使っておりましたが。
■ 仕事の途中で退社
飛び込み営業について、あくる日には仕事の途中で逃げ出す人もいました。
『きのう、仕事に出た○〇君が、帰ってきません。連絡もありません』
ということも。携帯電話などない時代ですから、連絡もままなりません。会社はそれで、右往左往するという訳でもなく、
『家に電話して、ダメだったら本人からの連絡を待とう』
と、実に平然としています。そういう例が、来れまでから幾つもあったからでしょう。
『今朝、昨日の○〇君から辞めると電話がありました』
という風に大抵の場合が、決着がつきます。
■ 一定の人は残る
しかし、一定の人は残ります。残ると言っても長くて2-3年から最長で5年位でしょうか。その人たちは、特別に優秀という訳でもありません。会社から、
『○〇君、どやねん、見込みの客はないのんか?』
と、言われる3か月過ぎに言われ出すまでに、コンスタントに契約を取って来るのです。まあ、のらりくらりといった風です。
この人たちは、主任や係長にはなれないが、古株でもあり、部長からの覚えもめでたかった。会社も新人ばっかりでも困るので置いておきたかった人たちであったのかも知れません。本人たちも、それを逆に利用していたきらいもあります。
■ 自宅に帰ることがなかった
飛び込み営業先を全部回っても、何も見込み客を見つけられない時は、仕事が終わっても帰り辛いものですから、時間つぶしにパチンコをしたり、ゲームセンターに入ったりしていました。
夕方6時半頃になって、
『今から、社に戻ります』
という電話は全員がしなければならなく、
『もう、課長は帰ったかな?居てたら厭だなあ』
と言いながら、恐る恐る掛けましたが、大抵の場合、課長は夜10時まで居残っていたようでした。
そこから会社に帰り、当日の報告をして、不平を聴き、会社を後にするのは10時前で、そこから小一時間の一人住まいのアパートに帰る気力もなく、会社の近辺に部屋を借りている同僚の元に転がり込むということは、ほぼ日常的でした。違うチームの人間などもなぜか複数いました。ほぼ雑魚寝です。
酒を飲み、スーパーの摘まみをあてに上司の悪口三昧でしたね。でも、結構この時間が好きであり、ただ楽しかった。仕事に将来は全く望みがあるとは思えていませんでしたが。