ある暑い日、食卓が整うまでくつろいでいますと、娘が
『あ、コバエだ』
と言って空(くう)を見まわしています。そしてわたしの方に飛んで来たようでしたが、わたしは発見出来ませんでした。コバエが最近飛んでいるのに、確かにわたしも遭遇することがあり、たまたまこの日は、わたしは気が付きませんでした。
それでも、娘は気にいらないらしく、暫くは空を見ておりましたが、またしてもコバエは懲りようもなく飛んで来たようで、
『パチン』
と手を合わせる音がして娘が得意げに、シャープペンの芯が短く折れたような獲物をわたしに見せました。
『おお、凄い』
わたしは感嘆の声を上げました。が、暫くすると今度は、わたしの視界に複数のコバエらしきものが入りました。わたしはそれが飛ぶ方向に視線を追いやると、娘がそれに気付いて、同じように視線を合わせようとします。
■ それはしかし
わたしの追いかける空間を同じように追いかけた娘は、
『どこ?』
と虫の飛んでいるとわたしの言葉を、怪しんだらしかった。
『そこ、そこ』
わたしは娘の方を指さしましたが、
『何もとんどらん』
と指摘されて、わたしは違う方向に視線をずらしました。やっぱり複数匹が飛んでいます。また、違う方向に視線をずらしてもそこにも飛んでいます。
しかし、それはわたしの目の中で飛んでいるいわゆる疲れ目に出てくる虫だったのです。いわゆる疲れ目であります。
買い置きの目薬を差して、その日は早め就寝となった。