蓼食う虫
「蓼食う虫(たでくうむし)」は谷崎潤一郎氏の小説で、まあ面白いと思うが好き好き。ここでの内容詳細はどうでもいい。
そもそも、この小説題名は「蓼食う虫も好き好き」ということわざが念頭にあると思います。それで思い出すのは、谷崎潤一郎氏は、猫を複数匹飼っていて、そのうちの一匹だけをなぜかかわいがる。
それで、誰かが問うた。
『どうしてその猫ばかりをかわいがるのですか?』
すると、谷崎氏はこう答えたという。
『好き好きに理由はないよ』
と。
即ち、「蓼食う虫の好き好き」というものでありましょう。平たく言えば人の好み理由がなく、分からない。
■ 蓼
ここに出てくる「蓼(たで)」とは冒頭のような野生の植物で辛いので、虫が付かないとされています。わたしの故郷でも川沿いを中心に夏場にいくらでも見つけることが出来る。確かに虫が付いているのを見たことがないようにも思う。
また、「蓼食う虫葵に移らず」ともいう言葉もあります。葵(あおい)は虫の好む植物であるのですが、それには見向きもしない虫もいるということですね。
しかし、そんな辛い蓼、殆どの虫が敬遠するような植物であっても、それが良しとして食べる虫もいると言います。このように、多くの人が敬遠するような男あるいは女であってもそこがいいと思う人もいるわけです。
世間には、
『あんな綺麗な人に、どうしてあんなブ男が?』
といぶかしむような事例は少なくありません。また、逆もしかり。
しかし、本人にすれば、
『大きなお世話。放って置いてくれ!』
でありましょう。世の中は本当によくできていると感心する。