人の名を新たに覚えて置く必要があるなどと言うのは、まあ仕事以外には殆どありません。しかし、食事の時にテレビを見ていて、昔覚えた女優を幾か月なり半年ぶりに再び見る時、
『えーと、この人の名何だったかな』
と思うことがあります。
若い頃には、直ぐに思い出せたのですが、今は0.1倍速くらいの記憶の巻き戻しスピードなので、その場で思い出せることは多くはありません。家族に聞けばそれはその場で解決する訳ですが、何だか癪なので黙っています。しかし、失顔症なる病気ではありません。
■ 気になる
その人の名前を思い出せたところで、良いことがある訳でも悪いことが起こる訳でもありません。従ってどうしても思い出す必要はないのです。が、思い出さないことによって、思い出せない自身への言い訳がしたくないという気持ちが残ります。
つまり、ボケの初歩に来ていると、思いたくない訳ですね。
それで、ネットで調べるとか子供の記憶を頼るとかもしたくはありません。何が何でもというほどではないものの、自力で思い出せたらと思う訳です。しかし、既にボケの初歩には来ていることは確実な情勢で、どうしても思い出せない。
■ 思い出せる時
食後の時間も、歯を磨きながらも、寝ようと着替えつつであってもやはり気になる。しかし、思い出せない。布団の中に入っても、なお思い出せない。ブツブツ言いながらいつの間にか眠りに落ちていく。
それが、あくる日の昼頃にフッと水の底から泡が一つ浮き上がってくるような塩梅で思い出せることがあります。
『あ、そうだ。あの女優さんは○〇さんだ』
てな具合です。それを、家族に誇らしげに告げると、
『今頃思い出したんかいな?』
と、冷え切ったお茶のように、とても冷たい。