子供の頃、実家が300羽程の養鶏をしていた。村の多くの家が挙(こぞ)って始めた内の一軒だった。「儲かるらしい」と噂が流れた。それが始めるきっかけだったが、殆ど儲からなかった。
広い鶏舎は外壁の殆どが金網で囲われていて、放し飼いだった。
その小屋で弱い鳥が何かの拍子にお尻をつつかれ始めた。するとそれに殆どの他の鶏が加わる。
やがてお尻付近が血だらけになる。逃げ回る。お尻から鮮血がしたたる。それは人間で言えばいじめだったであろう。
見かねて父親が小屋から出してやる。
『これで暫くおとなしくしていれば、傷も治るだろう』
父親もわたし達もそう思った。
にも拘わらず、この鶏は出された小屋の中に戻りたがって小屋の回りを歩きまわる。毎日毎日。あまりに鶏舎の中に戻りたそうなので、戻すと同じ目にあって逃げ回る。
今に思うと、それは人間の社会でも同じか大して変わらないのかも知れない。