聖護院 京極のブログ

天と地の間に新しいことなし(ことわざ)・・・人間の行動は今も昔も変わってはいない

ゴキブリと靴下と

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        画像は、わたしの合成図であり、実際のものではありません。

 

 本日はゴキブリの話。深い洞察の研究報告という類(たぐい)のものではありませんから、悪しからず。

 

 

これは、わたしがかなり若い頃の話です。

 

わたしは仕事を終えて一人住まいの古ぼけたマンションに帰り着くと、言いようのない疲れを感じて、その場に倒れ込むように横になる事が幾たびもありました。それ程に、仕事が過酷であった訳でもなく、体調が崩れているという意識もありませんでしたが、いわれのない体のだるさがありました。

 

そういう時には何をする気にもならず、空腹ではあるものの何かを作って食べる、ちょっと近くのコンビニに買いに出るのも億劫でした。そのまま、目を閉じて気力の回復を待つのが常でした。

 

この話のそんなことがある日の夜の出来事でした。

わたしは、しばらく寝転がってから

 

『さあ、起きよう!』

 

と自分に言い聞かすように目を開いたものの、その声とは裏腹に起き上がる気力が出ません。また、しばらくとりとめもなくそのまま、天井を見上げていました。

 

 

ゴキブリ発見

そんな時、ふと天井を見回すと何か黒い染(シミ)のようなものが見えます。これまで、天井をしげしげと見たことは無く、染(シミ)が知らぬうちに出来ていても不思議はありません。それは、天井と梁が取合う際(きわ)の部分にあります。

 

『うん? なんだ?』

 

と一人呟きましたが、やはり起きて確かめる気になりません。

その上、天井に付いた蛍光灯の光が眩く、広範に視界を遮っており、それ以上目を凝らしても確認できそうにありません。

 

『なんだ?』

 

そうは思うのですが、意地のように体は起きません。

眼を凝らすと、その黒い染(シミ)のようなものは、少し動いたように思えました。更に注意深く観察をすると、何か細く長く伸びた触角のようなものも見えます。それは、時々ゆっくりと左右に動くことがあります。

 

『あ、ゴキブリかあー。このー』

 

大きさは、手の親指ほどに大きく、わたしの残した日々の暮らしの食べ物に満腹していたらしいのです。そう思うと何か腹立たしくなり、自分の迂闊さも手伝って、何とか退治してやろうという気が満ちてきました。良い機会です。今なら起き上がる気力も湧いてきた、、、

 

 

ゴキブリ退治の方法は?

しかし、このゴキブリをどのような手段で退治するのかという問題が残されています。そろりと起き上がり、台所のテーブルの新聞紙を丸くくるめて、一発必中で叩きつぶそうか。それはしかし、事後において被害が大きすぎる気がしました。例えば、天井が汚れてしまう、ゴキブリの体や内臓が飛び散る。それが、わたしの上にも降りかかるかも知れない。殺虫剤の買い置きは、殆ど必要がなく、ありません。

 

 

今回は追い払うことに

天井近くで殺すのはまずい。ここは、今回は追い払うことでよかろう。床や床付近の壁に降りたところで退治すればいい。すっかり弱気になってしまいました。追っ払ったあとにそううまく、わたしの眼の届く位置にやすやすとゴキブリが現れるとも思えません。ゴキブリはそんなに愚かではありません。しかし、他に方法が浮かびません。

 

わたしは、追い払うなら何かゴキブリにも、天井にも傷のつかないものにしようと考えました。すると、わたしの履いていた靴下が思い浮かびました。

 

『そうだ。それがいい。オレの臭い靴下でも食らわせてやろうか』

 

わたしは、投げつけたわたしの靴下がゴキブリに命中して、その臭さや当たった衝撃で落ちる姿が思い浮かびました。

わたしは、一人ごちてからニヤリと嗤(わら)いました。

 

 

靴下を投げつける

わたしは脱いだ靴下を交互にゴキブリにめがけて、寝転がったまま投げつけ始めました。寝転がっているせいかかすりもしません。ゴキブリも何事もなかったように平然としています。それがまた小面憎くもあり、更に投げ続けますが、だんだん疲れて来て更に的が外れます。

 

そこで靴下の片方だけでは、重さが足りなく思った位置に投げづらいと考えました。

 

『二つをまとめて投げつければ、うまく行くかも知れない』

 

そう考えて、実行してみました。

 

 

最悪の結果が待っていた

二つまとめて、投げつけるとなんと、見事にゴキブリに命中したのです。ゴキブリはその衝撃に耐えられず靴下と共に落下。落下地点はわたしの顔の上でした。最悪の結末です。

 

『わあ!』

わたしは、声を張り上げ、落下物を反射的に払いのけましたが、臭い靴下の臭いと共に、昆虫類の足のザラザラとした爪の複数の感触が、伝わりました。

 

半身を起こして辺りを見回しましたが、わたしが払いのけたゴキブリは見当たりません。靴下だけが窓の下に落ちているのみです。

 

以来、そのゴキブリに一度も遭遇することはありませんでした。わたしは、新聞紙を丸めていつでも臨戦出来る体制を整えておりましたが、数か月もするとどうでもよくなり、その意欲もなくなり、また変わらぬ日々へと帰結しました。