続・飛び込み営業
飛び込み営業の募集の内容は、前回も書いた下記の通りではありますが、書き漏れがありました。
「基本給25万円+一件成約に付き7万円。学歴・職歴不問」は前回。
これに更に「未経験者歓迎」「見習可」「親切指導」の漢文が加わっておりました。
要するに実力次第という、何ともまともに勤めなどしたことのないわたしには涙がこぼれる程に美味しそうな募集だったのでした。
■ 1チーム5-6人編成
飛び込み営業を行う時の人員編成は、1チームに付き6人が最大でした。これは、会社の乗用車で飛び込み営業地域へ移動するためでした。車は、この中の長である係長と主任及び私たちの平社員が3-4名という布陣です。こういうチームが記憶に残っているだけで10チームはあったでしょうか。当然チームごとの客の争奪戦になります。
まるで、刑事ドラマの班別編成風でした。
■ どの地域にするか
数十戸の分譲地の周辺の半径10キロ内を目標に、飛び込み営業を行いますが、現地に到着するまでは、今日はどこに飛び込むかは係長が殆どで、主任がおぼろげに知っている程度で、平社員のわたしたちには、何も知らされていませんでした。
勿論、知っていたところで何かが変わる訳でもありませんが。それに、わたしたちに事前に言うと、他チームに情報漏洩が出る可能性も考慮してのことであったのかも知れません。
■ 朝礼
朝礼は、全員が出席しなければなりません。全員が広い事務室にチーム別に縦に整列し、部長が前に立ち、二人いる課長が大声で社訓を発しますと、それに続いて以下のものが続くという訳です。
「一つ誠実、二つ努力、三つ感謝」であったでしょうか。これも、
内心は
『あほらし!』
とは思うものの、誠実に復唱しておりました。
そのあと、部長が前日に成果のあった、つまり頭金2割契約まで漕ぎつけた社員の表彰があります。表彰と言っても「○〇君おめでとう。みんなも続くように」だけ。
この、朝礼に出ないでも所属チームが会社を車で出発するまでに出社していないと、乗り遅れてしまいます。遅刻は許されません。
■ 朝礼が終わると出発
朝礼が終わると直ぐに出発です。これも、オタオタしていますと、課長や部長が追い立てて来ますので、とにかく社を出なければなりません。個人の管理する机というものはなく、持ち物は手提げカバン一つという、足が地に付かない社員でありました。
女子の社員もいましたが、事務職だけで、今も覚えているのは2人だけす。朝は早く、夜は早くて7時ころのにしか居ないので、話もする機会がありません。かわいい子もいたと思うのですが、当時は毎日が地獄のようで、ぼろ布(きれ)のように精神状態でしたので、彼女たちと何とかなろうという余力は皆無でした。
■ 高速道路で移動
高速道路を移動して、飛び込み営業の地域へ向かいます。運転は係長でした。狭い室内に押し込められて、早く着かないかなとばかり、いつも思っておりました。高速道路をバンバンと飛ばすものですから、良くパトカーから警告を受けたものです。
『そこの、○〇建設の車、スピードを落としなさい』
警告程度で収まるのは、警察関係の人々にも多くの会社の分譲地の購入者がいたため、いわば「手心」を加えて貰えたわけです。今風に言えば「忖度」でしょうか。勿論、現在ではそのようなことは行われていないとは思いますが。
■ 「親切指導」
セールスの仕方は、入社数日は主任か係長について回りますが、後は見よう見まねでやるしかありません。「お前らは、この会社に稼ぎに来てんだから、後は自分で考えてやれ」てなものでした。募集の時の「親切指導」も呆れます。
■ セールストークの実践
早く現地に到着した時は、セールストークの実践を公園などで行います。人通りが多い公園であっても、これをやらされました。
『おい、おまえ、オレに今回の物件をセールスしてみろ』
と係長が、平社員に言いつけます。
そこで、
黒い手提げカバンを右手に、左手にバインダーを持ち飛び込み先の玄関ドアの前に立つ姿勢で、まずは呼び出しボタンを押すところから始まります。
例えばわたし、
『ピンポン』とわたし
『はーい、どちらさん』と係長
『わたし、○〇建設の者ですが、近くに分譲住宅を、、、』ここで、言いよどみますと、
『うちは、何も考えていないんで、結構』と係長
『・・・』
『あのな、そんなセールストークではアカン』
と係長に叱られますが、ではどうするのが良いかは少しも教えてくれません。道行く人が、立ち止まって見られることがあっても、わらわれても、
「大声でやれ」「風呂で屁をこいたような声ではあかん」
と係長は意に介しません。
『どうしたら良いか、考えておけ。また、旨く言っている人間にも聞け』
ですって。
「親切指導」などありません。ノルマ給を達成するのには、同僚ですら競争相手であります。部下であってもです。まあ、これほど厳しいのが「飛び込み営業」というもので、後日、違う職種で営業職に就いた時には、
「なんて楽な仕事かいな」と思ったものです。
続きます。