今の家に引っ越してきたのは15-6年程前のことで、散髪には近くが良いだろうと駅前を探しましたところ、格安の店が見つかりました。カットの席は2つで、店主らしい30歳代前半と見受けられる男性が一人だけ。
待つ人は居ず、即座にカットは始まりました。霧吹きを合図に、本来のチョキチョキという音はまるでせず、いきなり電動モーターの唸りが耳元で聞こえだしました。
■ 下刈りはバリカン
「ははあ、下刈りはバリカンかい」
と心でつぶやく。今にも止まりそうな、それでいて意外にしぶとく稼働するバリカンが一通り終わると、そこからはチョキチョキ音がし出しました。
「Oh!いいね」
と思ったのもほんの5分程で、
■ 早くも終了
『はい、お疲れさまでした』と店主。そして、体に掛けられていた覆いを、引っ剥がされてしまう。それまでの間、約20分足らず。なんでも早いのが好きなわたしでも、何だか気が抜ける速さです。
『あ、どうも』
とは言ったものの、
「これでもう終わりかいな?牛丼みたいにエライ早いな」
と、目の前の鏡を見ますと、まあ見た目には、入る前のボサボサ頭の髪の量が激減しており、仕事はちゃんとなされているようです。おもむろに、席を立ちました。
『髭は、当りませんので。これをやると、人数がこなせませんし、儲かりませんから。あ、頭も洗いません。こうして一日働いたら、腕はパンパンに張りますし、腰は痛いし、足も棒になりますわ。髭剃りは、勿論、どうしてものお客さんはお受けしますが』
と聞きもしないのに、まるで言い訳のようにいうのを遮って、
『あ、そう』
とはいっても納得できないまま、
『いくら?』
と聞きますと1,400円と答える。支払いを済ませて店を出ようとすると、新しい女性の客が入ました。
『あ、いらしゃい。カットは出来るのですが、洗髪は出来ません。見ての通り、仰向けでの洗髪の出来る洗面台となっていませんので』
歳の頃60歳代の女性は、諦めて帰って行きました。
■ やっぱり
代金が安いのは、心にも財布にも優しいのでいいのだけれど、やっぱり世間話などしながら、じっくりと刈って貰えるのがいい。何とも言えない優しい感じの女性の手で洗髪や髭を当たって貰える店が高いけれどたまのことだから、いいなとおもう。
その店には、その後一回の計二回で終わりました。
■ 現在
その後は、我が家の娘に電動バリカンで毛の長さ一律に6mmカットをして貰い、対価として1,000円を支払っております。ちなみに電動バリカンは、二代目。
切腹の時のように絨毯の上にビニールシートを引き、バリカンやらハサミやら、体の覆いやらは自分で用意して、この値段となります。決して安くはありませんが、これ以下はちょっと周りの店にもないし、出かけなくても良いので。
『ありがとう』
と言ってカットの後に差し出す1,000円札を、彼女はひったくるようにして素早く受け取り、わたしは風呂に直行。後片付けは彼女がしてくれる。