クーラーから黒い虫が飛び出た
昨年の夏のことでした。7月に入って数日でクーラーを入れることとなりました。それまで、殆ど死ぬ思いでスイッチを入れなかったのは、一つには家計のためであり、次にはクーラーの涼しいというより、冷たいと言った方がよい風をわたしが嫌うからでありました。
しかし、うだる暑さに我が家も限界かと思われ、クーラーを入れることとしました。特に妻は、薄グレー色の半袖シャツが、濃いグレーに変色する程の汗をかいており、早晩熱中症で倒れる可能性もありましたし、気の毒でもあり決断しました。
■ スイッチON
開いていた窓を閉め、スイッチを入れますと冷風が下りてきて、一息つけました。しばらく、この冷風を吹き出す機械の話になりました。
『このクーラーも長いね。最近は最強にしても涼しくない』
と妻がこぼし、娘が家計のことなど何のお構いもなしに、かつ、わたしの収入にもまるで忖度せずに
『これは、買い替えなきゃいかんでしょう』
などと言いだすのを、
『あんさん、何言うてはりまんねん。新しく買ったらどんだけかかるか知ってるの?』
とわたしが反撥します。今度はわたしが言う番です。
『あんたも、会社勤めをして数年になるんだから、買ってくれてもいいのじゃないかい?お父さんが、特上の製品を選んだる』
と反撃しますと、
『うーん。このクーラー、まだまだ使えると思う。辛抱しようよ』
と手の平返し。呆れてその言葉の主の顔を見ますと、プイと横を向く。
■ 突然に何か
そういう話をしていると、クーラの風に乗って黒い虫のようなものが飛来しました。とんでいった先の娘は、悲鳴を上げました。
『わー。黒い虫が飛んで来た。何々?』
思わず体をすくめて立ち上がり、椅子から慌てて離れます。その様子にわたし達も驚いて、その黒いものの正体を見極めようとしました。
体全体が真っ黒の、大きさにして凡そ、柿の種ほど。相当な大きさです。飛び回ってわたし達にを刺すことがあるかも知れない。それに刺されでもしたら、唯では済まないぞとわたし。恐怖が頂点に達している娘は、早く退治しろとわたしに五月蠅い。
飛んで来た黒い虫らしいものは、しかし、テーブルの端で風に体を揺らしてはいるものの、どこかに飛び立とうとする様子もうかがえません。それに安心して、妻が覗き込む。
『危ない!』
娘の金切り声で、妻は笑い出しました。
『よく見て見たら、埃よ。クーラーから出て来た。埃のかたまり』
成る程よく見ればそのようである。
■ 本年はクーラーの掃除を
本年は、先週に掃除を行いました。先に書いた大きな黒い虫の出どころは、冷気の吹き出し口の回転する送風ローラーかららしい。埃の付着も限度を超えて、千切れて飛んで来たもののようです。首振り用の立てに仕切りの間から見ると恐ろしいほどの埃の量です。
それを、マスクにメガネで約一時間半を
『うんうん』とか『厭になる』
など、有りっ丈の愚痴を並べて取り除きました。体中黒い埃だらけで、床にも黒く積もっています。とりあえず完了しましたが。まだ、試運転を行っていません。試運転では、恐らく取り損ねている埃や、取れかかっているそれが、かなりの量で飛び出してくると思われます。
今更ながらに、試運転が気が重い。しかし、クーラーの使用時期も近づいてきています。忍従にも限度がある近頃の暑さに、時間は残されていない。