田舎の高校に通っていたわたしは、小遣いと言えば山菜を取って来てそれを業者に買って貰う位の事しか稼げませんでした。アルバイトというものが、需要がないので出来なかったのです。
高校へは、バイクで通学しておりました。学校も公認されていたので、何も問題はなかったのですが、ガソリン代はそのアルバイトから捻出する約束で、バイクを買って貰った都合、小遣いを他に回す余裕は全くありませんでした。
■ 「すーうどん」
高校の校門の前の国道を挟んだ向かい側に、田舎風のレストランがありました。わたしは、高校時代の一度たりとも、そこで食べることはおろか、足を踏み入れたこともありませんでした。
友達からは、何度も誘われたことはあります。しかし、そこに使う小遣いはないので、何かと言い訳を作って誘いを断っていました。わたしは、そこに入って食べられる友人が非常にそれが羨ましかった。彼らは食べ終わってわたしのそばに来たある時、
『何を食べて来たん?』
とわたしは問うたのです。
『すーうどん』
と答えました。
『そうかー』
と、わたしは言いましたが、その「すーうどん」なるものが何なのかがまるで解りません。わたしは懸命に思案しました。もしかすると、そのうどんには「酢」が入っているのだろうか?わたしのお腹は、酢に弱いので食べられなくてもいい、とも思えました。
『いや、それならいらん』
と独り言(ご)ちて、食べられなかった悔しさが紛れたものです。
後年、わたしはそれが
「素うどん(すうどん)」である事を知りました。その時のわたしの自身の滑稽さと、知識の無さのわびしさを同時に味わったものです。
「素うどん」は具材が載っていない"だしとうどんだけ"のうどんです。店によってはネギの微塵切り程度のものは載せてくれるようです。
そのうどんであれば、わたしは自宅で良く当時食べておりました。それをわたしは何か特別な食べ物と思い込み半ば、あこがれていたのです。