近所の男性が手土産持参で結婚報告に来た。奥方も同行しての挨拶だった。特に懇意という訳ではないが、一軒置いての同じ組の人だから来たに過ぎないだろうとは思う。
本人は四十半ばの頭がすでに額から超頭部を超えた辺りまで綺麗に禿げあがって、年相応に見える。奥方は五六歳年下に見えた。素朴な飾り気のない落ち着いた感じが伺えた。
『おめでとうございます』
『ありがとうございます。よろしくお願いします』
よろしくお願いしますは、奥方も声を揃えた。
これまで男性本人の実母が組で回って来る色々な当番を、その都度やって来てこなして帰る。そういう年がここ20年くらい続いていた。
その間に一度も他の女性を見なかったわけではない。若い派手な女性も見かける事もあったが、その期間は長くは無かった。結婚するのかなと思わせはしたが、酷く不釣り合いにも思えた。
その時のわたしの感じた事が、当事者たちにもあったのかは知らないが程なく見かけなくなっていた。「結婚はしてもしなくても後悔する」という。その後の5年くらいは誰も若い人は見かけず、彼の母親の姿だけ週に一二度見ることが続いていた。
結婚をしないで置こうと考えていた訳ではなかったことが分かって、何だかホッとした気になった。