車検の期限まで一か月前になって、その都度、見積もりと車検に出している会社に愛車を持って行った。
見積もりは3-40分で済むので、待合室で気楽に待っていた。
『聖護院 京極さま(わたしのこと)、お待たせしました。見積もりが上がりましたのでご説明いたします。どうどこちらへ』
言われるままに受付カウンターの前に腰を下ろす。何か厭な気がした。
年配の店員がさも気の毒そうにわたしの顔を眼鏡越しに見上げて、
『前輪のラックピニオンというギアボックスを、交換せねばならず、例年の3倍以上の金額になります』
という。
『え、そんな。困ったな』
『まあお困りでしょうが、これを交換しないでは車検は通りませんのです』
とそこは妙にきっぱりと突き放し、言葉を継いだ。
『この部品をリビルト品(再生品)に替えてくれる、どこかの修理工場であれば半値くらいにはなるかも知れません。内ではちょっとそれが出来ないのです』
『はあ、そうですか』
何で出来ないのだとわたしは思ったが、こういう時が来ることを心のどこかで予期していた様におもう。
「こらあかんわ」
と思った。いつもハンドルから厭な音が出ていたし、ここを今高価な部品交換をしても、老人の体みたいに次から次へと悪いところが出て来そうだとも思った。
「買い替え時かな」
と思った気持ちが口に出て、これ幸いにと年配の店員は言葉を拾った。
『もう20年以上お乗りになっておられますしね』
と涼しい顔で言うのを半ば呆れながら笑ってごまかした。
結局、家に乗り返った。
妻が、
『あら、早かったのね』
と言い終わるのを追っ付けて
『あかんわ、車検通らへん。30万円以上かかる』
というと、妻は目玉が落ちそうな位に大きな目を見開いて
『えーどうすんの?』
『どーすんの?ってどうしょう?!』
という他なかった。泣きたい気持ちだった。
ネットでそれから断続的に安い車を探している。
が、これまで何の問題も無く通って来た車検だったので、直すにしてもまた、中古車を探すにしても痛い出費は間違いなさそうだ。何が辛いと言って、この想定外の出費だ。